ラベンダーの咲く庭 LavandeBleu

日々のRFAを記録したり雑談したりするブログです

断崖絶壁今何処 弐

「断崖絶壁今何処」元ネタは有名?なあれです

同人のあとがきにこのタイトル使っとけば良かったなって、今思い出したけど後の祭り

 

 

突然ですがたまには真面目に仕事の話をしよう、したくない?

 

 

僕が他人に「どんな仕事してるの?」と聞かれる機会は日常ではほとんど無いが、全くのゼロではない。この問答は、たぶん同じ年代の人なら何かと悩むものであると思うが、僕は一貫して「印刷関係です」と答えている。大抵の人はここで興味を失うが、もう少し深く知りたがっていた場合に、どのように説明するのが妥当だろうか? と、毎度回答するたびに疑問が残る。

 

他人に自分の仕事を分かりやすく教えるのは困難を極める。

例えば接客業とひと口に伝えても他人がそこから想像するのはコンビニやアパレルなどの店員の姿だけであり、実際には接客以外の発注作業や整理、掃除、場合によっては人事に至るまでのあれこれの仕事は含まれていない。だからといってお互いの意思疎通に齟齬があるかといえばそうとも限らない。上に書いたように、他人がこの手の質問をする時は社交辞令なので、大雑把にだけ伝わればそれで用が足りる。

 

だけど、やはり何か釈然としない。もっと良い説明は出来ないだろうか?と。単に自己満足ではあるがもう少し工夫を凝らしたい。

もちろんほとんどの場合は一言で済む。そうではなく、例えば「どんな本を作ってるの?」「どういう作業なの?」と切り込まれたら。あるいは、他の話題が少ないなどせっかく提供されたネタなのでと膨らませる必要を感じたら。ピンポイントな質問ならともかく、仕事内容の曖昧な話になるとなかなか面倒であるし、咄嗟にうまく話題を膨らませられないかもしれない。

 

というわけで、ある程度のケースに対応できそうなネタの覚書くらいを想定しておこう、というのが本記事の主旨です。

 

⚫︎大カテゴリ:印刷関係

印刷物を作るお仕事です。

 

○中カテゴリ:制作の仕事

馴染みがない人にはピンとこないかもしれませんが、印刷に適したデータを作る、という目的でお給料の出る仕事が世の中にはいくつか存在します。

 

・小カテゴリ:印刷に適したデータを作る仕事とは?

一般的な会社で良く使われているワードやエクセル、パワーポイントでももちろん印刷物を作ることはできます。但し、適性がありません。そのまま印刷屋に持ち込むとほぼ確実にレイアウトがズレたり色が変わります。

そのようなことを回避もしくは緩和するため、更には商業印刷物としてキレイに整ったもの(データ)を作る専門職が、僕らのようにDTPオペレータ、DTPデザイナーと呼ばれる職業です。

 

・小カテゴリ:客の話

商業印刷にもいろいろあるのですが、弊社の場合は官公庁がメインの顧客です。従って、マニュアルや周知チラシ、報告書といった堅い内容のものが大多数です。相手方は主に広報とか宣伝を担当する部署で印刷技術に関しては素人同然な事が多いですが、たまにデザイン事務所の絡む案件もあります。

 

・小カテゴリ:編集、出版社とは違うの?

違います。彼らは原稿の中身を考える仕事ですが、僕らはその原稿を印刷物として見栄え良く整えるのが仕事です。

 

・更に突っ込んだ話:デザイン事務所は制作部とは違うの?

ケースバイケースですが、ほとんどの場合違います。デザイン事務所はその名の通りデザインを起こすのが主な業務ですが、印刷会社の制作部もしくは制作専門の業者というのはデザインも含めて印刷工場により近い仕事になります。

具体的に言うと、発注された印刷仕様に則ったデータかどうかをきちんとチェックしているのが制作側で、あまりそこには拘らず、というか企画・編集段階から仕様や内容を提案しているのがデザイン事務所です。デザイン事務所から入稿したデータには経験的に不備が多く、「印刷の知識が無いのでは?」と感じる事も多いですが、もちろんそうでない場合もありますので一概には言えません。

 

・もっと根本的な話:仕様ってなに?

この辺も馴染みがない人は多いかもしれませんが、ある程度のルールが無ければ発注、ひいては仕事というものは成り立ちません。入札にしろ随意契約にしろ金銭のやり取りをするためには必ず仕様書が必要です。どの業種でも物作りの現場には必須の要素です。

 

○中カテゴリ:制作以外の印刷関係の仕事

印刷業界はいわゆる「横持ち産業」と呼ばれるほどに仕事の種類が幅広く、普通はひとつの印刷会社だけでは完結しません。以下に弊社を例にとって大雑把な仕事の分類を挙げてみます。

[営業]客あっての商売ですので、その相手をする仕事が必要ですね。

[業務]総務・事務と兼任ですが営業の補佐的な役割の仕事をします。例えば入札に必要な書類を揃えたり印刷に使う用紙の手配をしたり、外注会社との連絡役もします。

[制作]僕の所属する部署です。仕事内容は、単に印刷用データの作業をするだけでなく、客と直接、電話・メールなどでやり取りをするほか、外部の制作協力会社に作業を依頼したり同業他社に下版(※)の段取りや仕様の相談なども行います。

下版とは、客先と内容の確認についてやり取り(校正と呼びます)が済んだデータを印刷現場へ回す、一連の作業のことを指します。会社によって言葉の定義は結構曖昧です。

 

ここから下にある工程は弊社外の作業になりますが、印刷業には欠かせない職種です。

[製版(刷版)]作ったデータを印刷工場で印刷するために必要な工程です。制作部で作業した印刷データを実際の「版」に起こすのがこの製版作業です。印刷関係になじみの薄い人には最も説明のしづらい部分で、具体的なイメージが掴みにくいと思います。制作作業を生業にしているプロでもこの工程が曖昧な人はかなり多い印象です。どんなに顧客満足度の高い印刷データを作ってもここで躓いたらすべてが水の泡、というぐらい大事なんですけどね。

[製本]印刷機で刷り上がった紙(刷了紙)を人が読みやすいサイズに断裁・折り・貼付などをして仕上げる工程です。ほとんどの人が意識したことはないと思いますが、印刷機で刷り上がった紙は、規格でたとえるならA0(ゼロ)とかB0とか、ようするに横1mを超える非常に大きいサイズになります(これを全紙と呼びます)。印刷・製本の効率化のために、例えばA4仕上がりの印刷物なら、1枚の全紙に8箇所面付して両面印刷してからA4サイズに折って断裁するのが一般的な製本加工になります。

[印刷]先に挙げたほうが良かったかもしれませんが、当然工場で印刷機を回す印刷オペレータにも専門の人がいます。物理的な機械相手なので結構な体力仕事です。重い全紙のロールを動かしたり、排紙部(刷った紙が出てくるところ)とコンソール画面(PCのような端末)とを行き来したり、重い全紙の束をまとめたり、機械の調子が問題ないかどうかを確認したり。また印刷機は図体が大きく、騒音も大きいので一日中工場にいると耳がおかしくなってしまいそう。色調を見る目も必要ですし、考える以上に繊細な仕事だと思います。

[その他]他業種との連携も必要です。梱包は、製本とほぼ同じ工程ですが大学の募集要項のように複数で一種類の製品になるものは梱包・セットを専門に作業する会社もあります。また、配送・物流の手配も専門の業者に依頼することが多いです。このように上流から河口まで、物理的にかなり多くの工程が存在するのが印刷業です。今はDLオンリーの販売が多いけど、ゲームソフトなんかも似たような感じになるかもしれませんね。あちらは物流というか販路なんかも色々あって大変そうですが。

 

・小ネタ:(DTPって)必要な資格とかあるの?

特にいりません。Macの現場がほとんどですが、別に触ったことなくても覚えられます。ただ独学でもいいですが、できれば最初は丁寧に教えてもらうかスクールとかである程度知識を付けたほうがいいかもしれません。お金があるならスクールがおすすめ。現場では(うちもそうですが)教えてくれる余裕のある人があまり居ないと思います。僕も自分で失敗を繰り返して覚えました。

 

こうやって広い目で見ると自分の仕事なんて流れのほんの一部にしか過ぎないのだけど、やっぱりどこが疎かになっても駄目なんだなあと実感します。

ネタの覚書にするつもりが業界自体の説明文になっちゃった。

 

 

・まとめ

職業の話を他人に説明するなら、「DTPオペレータってのをやってます」で済むんだけど、実際には自分の工程より上流または下流のあれこれもある程度把握しておかないとお給金を貰える仕事は出来ません。でも最初に書いたように、仕事を聞いてくるほとんどの人にとっては興味が無いことだと思ったので、自分のチラシの裏でなら許されると思い色々説明してみました。

印刷、紙媒体は衰退期、なんて風潮は感じますが、別に消えてなくなるものではありません。むしろ、写植なんかの時代の古い人がそろそろ消えてく時代なので、新たな人材の育成と技術の引き継ぎをもっと真剣にやったほうがいいのではないでしょうか。これは印刷業界に限った話じゃないとは思いますが。

儲かる職種では決してないけど、印刷業は面白いと思いますよ。

 

なお現在弊社では欠員が出ているためDTP経験者(希望)を募集中です(小声)